鹿92~93シーズン
昨年13シーズンぶりにプレイオフ進出を逃し、チーム史上3番目に悪い成績に終わったバックスは、このオフ大掛かりな再建に乗り出しました。
【まずは新HC】
暫定HCのフランク・ハンブレンは解任。後任には昨シーズンまでレイカーズのHCだったマイク・ダンリービーがやってきました。
ダンリービーはまだレイカーズとの契約が2年残っており、バックスはダンリービーと契約する代わりに92年のドラフト2巡目指名権&95年のドラフト2巡目指名権をレイカーズにあげました。なんと破格の8年契約です。
ダンリービーは現役時代を過ごし、ACとしても3年間籍を置いたミルウォーキーに愛着があったようで、またその奥さんもロサンゼルスよりミルウォーキーでの生活を望んでいたとか。
昨シーズン終盤にはデル・ハリスもチームを離れており、ダンリービーの肩書きはHC/GM。「レイカーズでHCを務めることは特別」としながらも、思い入れのあるチームからのスペシャルなオファーは断れなかったようです。
【ダンリービー初仕事】
・ドラフトに先立ってジャズとトレードを成立。ジェイ・ハンフリーズ&ラリー・クリスコヴィアックを出して、ブルー・エドワーズ&エリック・マードック&今ドラフトの1巡目指名権を獲得。
・そして、ドラフト1巡目第8位でトッド・デイ、ジャズからもらった指名権(第23位)でリー・メイベリーを指名。
エドワーズは運動能力の高いスウィングマン、マードックはルーキーシーズンを終えたばかりのPGです。エドワーズは昨シーズン中はスターティングSFでしたが、プレイオフでベンチスタートとなるなど出場機会の確保が微妙な立場にありました。マードックはまだ未知数かな?
これは、ジョン・ストックトン&カール・マローンのバックアップをグレードアップしたいというジャズ側の意向が強かったようです。
デイ&メイベリーはともにアーカンソー大出身。「メイデイ」と呼ばれた2人は1年次から主力として活躍しており、同大が90年のNCAAファイナル4に進む原動力ともなりました(チームメイトにはオリバー・ミラーもいました)。
デイは6フィート6インチ・188ポンドのSG。やや細身ですが、運動能力が高いシューターです。91年2月に学生寮で女性に対する暴行事件を起こしたことがあり、約8ヶ月の出場停止処分を喰らったことがあります(当初は1年間の出場停止でした)。入団に際して、カレッジ時代から着用していた背番号10をダン・シェイズから譲り受けました。
メイベリーは6フィート1インチ・175ポンドの小柄なPG。この年のドラフトはシャキール・オニール、アロンゾ・モーニングらをはじめとして層が厚かったんですが、PGに限っては超不作。1巡目で指名されたPGはメイベリーしかおらず、「一応」この年のドラフト最高のPGです。
【地味補強】
・スパーズ、ブレイザーズと△トレードが成立。デイル・エリスをスパーズに出してブレイザーズからアッラー・アブデルナビーを獲得、スパーズはドラフト1巡目で指名したばかりのトレイシー・マレーをブレイザーズにあげました。
・レスター・コナーをマジックに出して、サム・ビンセント&94年のドラフト2巡目指名権を獲得。
・アンソニー・エイベント、アンソニー・プラードと契約。
△トレードは、バックスとスパーズの取引話にシューターの欲しいブレイザーズが口を挟んできたパターン。リーディング・スコアラーの放出にしては見返りが少ないですが、フロントは起用法に不満を持つエリスをさっさと出したかったんですかね。
アブデルナビーはキャリア2年のF/C。エジプト出身で、昨シーズンまでは強豪ブレイザーズのベンチでした。
ビンセントはキャリア7年のPG。ここ3シーズンはマジックでスコット・スカイルズとスターティングPGの座を分け合っていました。
エイベントは昨オフの△トレードでその権利を獲得していたPF。去年はイタリアでプレイしていたので、ルーキーです。
プラードはマクニーズ州立大出身のPF。90年に同大を卒業後、一度はシクサーズと契約を結ぶんですが(ドラフトにはかからず)開幕前に解雇されていました。同大出身の選手はジョー・デュマース以来です。
ダンリービーは就任早々積極的に動き、若手中心のチーム作りが始まりました。といっても中堅選手やベテランは少なからず残っており、(戦力は別として)バランスよく再建を進めているかな~と思います。
ですが、そんなバックスを開幕前にアクシデントが襲います。
獲得したばかりのビンセント、モーゼス・マローンの長期戦線離脱が決まってしまうんですね。
ビンセントはプレシーズンで左アキレス腱を断裂し、シーズン絶望が濃厚。マローンはトレーニング・キャンプ開始から背中の痛みに悩んでいたようなんですが、手術を決断。椎間板ヘルニアの手術で、復帰時期未定の離脱となりました。
特にマローンが手術を決断したのは開幕前後で、穴埋めの補強にも動きにくいタイミング。このまま行くしかありません(てか行きます)。
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しかし、そんなバックスは意外にも好調なスタートを切ります(!)
[マードック&エドワーズの元ジャズコンビ、アルビン・ロバートソン&フランク・ブリコウスキー、ルーキーのエイベント]という新鮮なスターターでリーグトップタイの10勝3敗と開幕ダッシュに成功しました♪
再建の道を選んだ上にマローン&ビンセントが離脱したため、バックスの前評判はかなり低く、この好調ぶりはネッツの開幕ダッシュ(チャック・デイリーが就任)と並んで、このシーズン序盤のサプライズでした。
でも、長いシーズンはそんなに甘くありません。最初の1ヶ月はスケジュールが比較的楽だったんです。12月に入ってロードの試合が増え、スケジュールがタイトになってくるとあっさり11連敗(主力の故障もあったけど)。その後にも7連敗を喫し、少しずつ沈んでいきました。
オールスターブレイク時点では20勝31敗とまだ第8シードの背中が見える位置にいましたが、後半戦はロバートソンのトレード(後述)やブリコウスキーの故障などの影響もあってかボロボロ。8連敗でシーズンを終えました。
28勝54敗はディビジョン最下位・カンファレンス下から3番目です(サプライズ仲間だったネッツはプレイオフに出ました)。
新生バックスはアップテンポなゲームを展開しましたが、得点力があるワケではなく、ディフェンスについてはけっこう壊滅的。スティールがリーグ2位だったんですが、やっぱスティールやブロックの多さって必ずしもディフェンスの良さには結びつかないんですよね(相手チームに許したスティール数はリーグ下から2番目w)。
【核となったのはこの2人】
エドワーズは全82試合に出場し、開幕戦を除く81試合でスターターを務め、平均16.9点・4.7リバウンド・2.6アシスト・1.6スティール・FG成功率51.2%をマーク。ほとんどのカテゴリーでキャリアハイを更新し、バックスにとってエース級の存在となりました。
速攻のフィニッシュやパワフルなドライブを得意とするエドワーズにとって、若手主体でアップテンポなゲームを目指す新生バックスのスタイルはやりやすかった様子。フィジカルで熱いキャラクターも、再建を目指すチームにとってピッタリだったかもしれません。
ブリコウスキーは66試合(うち64試合が先発)で、平均16.9点・6.1リバウンド・3.0アシスト・1.2スティール・FG成功率54.5%(リーグ8位)をマーク。ウォリアーズが興味を示している・バックスがトレードしようとしている・・・など移籍の噂もありましたが、結果的には中心選手として良いシーズンを過ごしました。
マローンの離脱によりひさしぶりにCにスライド。Cとしては小柄ですが、その分器用で、アシストやスティールはもちろん、(本数は少ないけど)3Pもバリエーションにある多彩さを見せました(26本打って8本成功)。オフェンスでムラが少ないのもいいですね。
【若手の台頭】
昨シーズン、ジャズであまり頼りにならないバックアップPGだったマードックはこの移籍で開花☆開幕からサプライズな活躍を見せ、79試合(うち78試合がスターター)で平均14.4点・7.6アシスト・2.2スティール(リーグ7位)・FG成功率46.8%をマーク、MIPの投票では2位に食い込みました(受賞したのはクリス・ジャクソン)。
ビンセントの故障で回ってきたスターティングPGの座でしたが、見事にチャンスを活かしました。ダンリービーがレイカーズにいた昨夏、レイカーズはドラフトでマードックの指名を試みており、ダンリービーと相性がいいのかもしれません。
そして、ルーキーコンビの「メイデイ」も、オール・ルーキー・チームには選ばれなかったけど、良いプレイを見せました。
デイは71試合(うち37試合が先発)で、平均13.8点・FG成功率43.2%・3P成功率29.3%・FT成功率71.7%。コート狭しと駆け回るような躍動感あるプレイは切れ味鋭く、果敢に攻めるドライブや鮮やかなダンクでも存在感を見せました。SGとしてはシュートの精度が低く、ムラも目立ちましたが・・・
開幕からしばらくはベンチスタート。年明けにロバートソンが故障したとき、ダンリービーはまずフレッド・ロバーツをスターターとして起用しますが、すぐにデイをスターターへインサート。オールスターブレイク直前に左肘を脱臼し、1ヶ月ほど欠場しますが、そのままスターティングSGに定着しました。
メイベリーは全82試合に出場し、平均5.2点・3.3アシスト・FG成功率45.6%・3P成功率39.1%・FT成功率57.4%をマーク。シュート力に難はあるモノのマードックの不在時&不調時には穴を埋める働きを見せており、バックアップPGとしては及第点でした。
そしてエイベントも全82試合に出場。うち78試合でスターターを務め、平均9.8点・6.2リバウンドをあげました。最初の2ヶ月くらいは、2桁得点を連発するなど比較的コンスタントに活躍していたんですが、シーズン半ばくらいからはやや苦戦。ちょっと波が激しくなりました。
【古参組】
オフにFAになったのに特にオファーがなく戻ってきたブラッド・ローハウスは80試合で平均9.1点・3P成功率37.0%(85/230)をマーク。ローハウス的にはキャリアベストのシーズンのひとつとなりました。
目立ったのは、デイが欠場し、その穴を埋めていたロバートソンもトレードされて、スターターになってから。主にSFとしてプレイし、2桁得点を連発するなど得点源の一角となりました。精度・本数をトータルで考えると、バックス最高のシューターはローハウスだったかもしれません。
フレッド・ロバーツは4シーズンぶりにベンチへ。複数のポジションをこなせる控えとして79試合で平均7.6点をあげましたが、怪我人が戻ってきたり、トレードでメンツが新しくなったり(後述)したシーズン終盤は出場機会がかなり制限されました。バックスでプレイするのはこれが最後です。
背番号24となったシェイズは昨シーズンとほぼ変わらず。開幕から最初の1ヶ月ほどは数分単位でしか起用されませんでしたが、アブデルナビーがチームを去ったことで出場機会を取り戻しました。昨シーズン急降下したシュートの精度が更に落ちて40%に届かなかったのは、年齢的な衰えですかね?
マローンは3月末に復帰。復帰戦でいきなり13点をあげましたが、本調子には遠かったのか、チームが若手を優先したのか、その後は精彩を欠きました。11試合で平均4.5点・4.2リバウンド・FG成功率31.0%というのはもちろんキャリアワーストです。
【シーズン中も活発に動きました】
・12月頭。アブデルナビーをセルティックスに出して、ジョン・バリー&95年のドラフト2巡目指名権を獲得。
・年明け。プラードを解雇してアラン・オッグと10日間契約。
・2月頭にダン・オサリバン、2月半ばにデレック・ストロング、アレックス・スティブリンズと契約。
・トレード期限。ロバートソンをピストンズに出して、オーランド・ウールリッジを獲得。
バリーはルーキーSG。ドラフト1巡目第21位でセルティックスに指名されたんですが、契約がまとまらず、開幕からプレイしていませんでした(バリーの希望は3年契約、セルティックスのオファーは2年契約)。バックスでは最初の2ヶ月ほどはあまり積極的に起用されず、最終的にも47試合で平均4.4点・FG成功率36.9%ともうひとつな出来に終わりました。この人が優秀なロールプレイヤーとなるのはもっと先です。
因みに、アブデルナビーはトレード直前、マリファナの所持で逮捕されています。
ストロングは2年目のPF・・・といっても昨シーズンは海外やUSBLを渡り歩き、NBAでプレイしたのは1試合のみ。今シーズンもCBAでプレイしていました。今回は、そのCBAでMVPやニューカマー・オブ・ザ・イヤーを受賞するなどめざましい活躍を見せていたのが、バックスの目に留まったようです。
この人は今後、バックアップPFとしていろんなチームで渋い活躍を見せるんですが、その第一歩がここでした。
オッグ&オサリバンはCで、スティブリンズは今シーズンがNBA2年目ながら30歳という苦労人F。3人は3試合プレイしただけで解雇です。
ロバートソンはチームの再建プランに入っていませんでした。ダンリービーはマードックやデイら若手のいるバックコートにロバートソンはフィットしないと考えていたようで、また、ロバートソン自身もトレードされることを予想していたようです(古巣サンアントニオに戻りたいとコメントしていたことも)。
シーズン序盤は若手と出場機会を分け合っていましたが、腰を痛めて1月の大半を欠場すると、2月頭に復帰した後はベンチスタートにシフトしていました。
ウールリッジはキャリア12年目のベテランF。得点力が高く、かつては得点ランキングの上位に名を連ねることもありました。ダンリービーはサイズのある選手&運動能力の高い選手が欲しかったようです。
ただ、トレード直前に右眼窩を骨折していたため、トレード時点では目下欠場中。復帰するのは4月に入ってからで、ベンチから8試合プレイしただけに留まります。
創設25周年という記念のシーズンは再建の第一歩。たった1シーズンで(昨シーズンと比べて)これだけメンバーが入れ替わったのはチーム史上初のことでした。
勝率は昨シーズンを下回ったものの、有望な若手が多く、スタートとしては悪くないシーズンだったかと思います。ダンリービーが本格的にチームを創るのはこれからです。